「マラソンを速くしたいなら、とにかくたくさん走り込むこと」── そんなイメージをお持ちの保護者様は、少なくないかもしれません。けれど、私たちSNE Legacyの考え方は、少し違います。

先に公開した町田こどもマラソン完全ガイドでは、小学生が長距離を速く走るために必要な「3要素(スピード・ベース・LT)+ペース感覚」と、私たちが走り込みに頼らない理由の“さわり”をお伝えしました。本記事ではその先へ進み、3要素をどう鍛えるのか、そしてなぜその順番なのかを、南町田・鶴間公園で活動するコーチの視点からもう一歩踏み込んで解説します。読み終わるころには、「走り込みに頼らない」という言葉の意味が、きっと腑に落ちるはずです。

「たくさん走れば速くなる」は本当か?

「持久力をつけるには、とにかく長い距離を走り込む」── この考え方は、私たち親世代が学生時代に経験してきた部活動の記憶とも結びついていて、とても根強いものです。もちろん、走ること自体に価値がないわけではありません。けれど、小学生が長距離を速く走れるようになる近道として「走り込み一辺倒」を選ぶのは、実はあまり効率的ではないと私たちは考えています。

理由は大きく3つあります。

1つ目は、強化の順番として効率が悪いこと。後ほど詳しくお伝えしますが、長距離を速く走る力にはトレーニングの優先順位があり、いきなり走り込みから入るのは、その順番を飛ばしてしまう選択になりがちです。土台ができていないうちに距離を踏んでも、伸びはなかなか出てきません。

2つ目は、続きにくいこと。体力が十分でないうちに長い距離を走らせると、お子様にとっては「ただしんどいだけ」の時間になってしまいます。すると、いちばん大切な「走るのが楽しい」という気持ちが育つ前に、走ること自体が嫌いになってしまいかねません。

少し想像してみてください。スポーツの練習で、ミスをした罰として走らされる── いわゆる「罰走」を経験した方は、保護者の方のなかにもいらっしゃるのではないでしょうか。たしかに、そうした環境で持久力を身につける球技の選手もいます。けれど一方で、それをきっかけに「走ること=つらい罰」というイメージがこびりつき、走るのが嫌いになってしまった人や子どもがとても多いのも事実です。これでは、せっかくの走る力が将来につながっていきません。

3つ目は、結果が出ても将来につながりにくいこと。仮に走り込みで一時的にタイムが出たとしても、「これだけ頑張ってこのレベルなのか」とお子様自身が思い込んでしまうことがあります。子どもの成長スピードは一人ひとり違い、生まれ月や体格によっても大きく変わります。今の頑張りと結果だけで自分を決めつけてしまうのは、とてももったいないことです。

こうした理由から、SNE Legacyではレッスンの中でお子様を限界まで走らせるようなことはしません。では、走り込みの代わりに何を、どんな順番で積み上げていくのか。次の章から具体的に見ていきましょう。

長距離を速く走る「3要素+ペース感覚」をもう一度

はじめに、本記事の地図となる全体像を確認しておきましょう。町田こどもマラソン完全ガイドでもお伝えしたとおり、小学生が長距離を速く走るために必要なのは、次の3つの要素と、それらを本番で生かすペース感覚です。

  • ① スピード 短い距離を速く走り抜ける力(最高速度+フォーム)
  • ② ベース 長く動き続けられる有酸素持久力の土台
  • ③ LT(乳酸閾値) 余裕を持って走り続けられるペースの限界値
  • + ペース感覚 自分の限界に対して、今どのくらいで走っているかの理解度

そして重要なのが、この3要素には「スピード → ベース → LT」という鍛える順番があるということ。土台のスピードがあってこそベースが活き、ベースがあってこそLTを引き上げられる── ちょうどピラミッドのような構造になっています。

長距離走の3要素ピラミッド構造(土台のスピード→ベース→LTの優先順位)の図解

この記事では、これら3要素を具体的にどう鍛えるのか、そしてなぜこの順番なのかを、ひとつずつ見ていきます。まずは土台の「スピード」からです。

土台①「スピード」をどう鍛えるか

「長距離の話なのに、なぜスピード?」と思われるかもしれません。けれど、長距離を速く走るうえで、短い距離を速く走れる力=スピードは、まぎれもない土台です。

長距離走で本当に問われるのは、「あるペースを、どれだけ“楽に”走り続けられるか」です。たとえば、小学5・6年生が3kmで優勝を狙うとなると、おおよそ50mあたり11秒ほどのペースを、3kmずっと刻み続ける計算になります(前回の記事でご紹介した通り、2025年に全体トップだった女の子は3kmを10分57秒で走り切りました)。

ここで、50m走の自己ベストが9秒の子と8秒の子を思い浮かべてください。同じ「50mを11秒」で走るとき、余裕を持って走れるのはどちらでしょうか── 答えは明らかですよね。最高速度が高い子ほど、レースペースを“流す”くらいの感覚で刻めるのです。

もちろん、最終的な勝ち負けは、このあとお話しするベースやLTも合わせたトータルで決まります。それでも、スピードという土台にこそ、長距離の伸びしろが詰まっていると言っても過言ではありません。だからSNE Legacyでは、6〜7月の時期を中心に、30〜50mのスプリントや、無駄のない動きを身につけるフォームづくりから入ります。短距離を楽に・速く走れるからだづくりが、長距離の第一歩なのです。

土台②「ベース(有酸素持久力)」をどう育てるか

2つ目の要素は「ベース」です。じつはこの「ベース」、運動生理学の正式な専門用語ではなく、私たちが現場でお子様の状態を表現するときに使っている言葉です。ひとことで言えば、長く動き続けるための“からだの土台”。この言葉のなかには、次のような力が幅広く詰まっています。

  • 心臓の大きさ/一回の拍動で送り出せる血液の量
  • 肺が一度に取り込める空気の量(換気量)と、そこから酸素を血液に取り込む力
  • 筋肉のなかに張りめぐらされた毛細血管の量
  • 筋肉が、血液から酸素を受け取って使う効率

むずかしく聞こえるかもしれませんが、表れ方はとてもシンプルです。ベースが育つと、同じペースで走っても心拍数(脈拍)が下がり、余裕を持って走れるようになります。「同じ速さなのに、前より楽そうに走っている」── これがベースが育ったサインです。運動の余裕度が高いほど、持久力が高い、というわけですね。

このベースは、追い込むような走り込みではなく、ジョギングを中心に“じわじわ”と育てていくのが基本です。SNE Legacyでは、夏(8〜9月)からジョグの時間をしっかり取り始め、「気づいたら、結構長い時間うごけるようになっていた」という状態を目指していきます。

三段目「LT(乳酸閾値)」を引き上げる

3つ目は、いちばん耳慣れない言葉かもしれません。LT(乳酸閾値)です。

少していねいに説明します。運動の強度(ペース)を少しずつ上げていくと、ある地点から体内の乳酸が急に増え始めます。この境目の強度を、専門的にはLT(乳酸性作業閾値)と呼びます。そしてこのLTは、走っていて「きつい」と強く感じ始めるペースとほぼ一致すると言われています。つまり、このLTのペースを引き上げられれば、長距離をより楽に・より速く走れるようになるのです。長距離タイムを大きく伸ばす鍵が、ここにあります。

もっと限界に近い「VO2MAX(最大酸素摂取量)」という指標を使ったトレーニングもありますが、かなりハードで単調になりやすく、子どもには長続きしません。そのためSNE Legacyでは、小学生にVO2MAXを狙った練習はほとんど行いません。

では、LTはどう鍛えるのか。SNEではジョギングのなかで育てていきます。ベースを養うジョグに加えて、LTを刺激するジョグも行う。とくにアップダウンを利用したジョグが効果的なので、LTを鍛えたい時期は起伏のあるコースが中心になります。あわせてビルドアップ走(ゆっくりのペースから徐々に上げ、気持ちよく走れるペースでフィニッシュする練習)も多く取り入れます。1回300〜400mほどの距離を4〜5本── これでLTが鍛えられ、同時に次にお話しする「ペース感覚」を養う良い練習にもなります。

大人であれば、一定ペースで何kmも走る「ペース走」でLTを狙うのが一般的です。ただ、子どものコンディションは大人よりずっと繊細で、日によって調子が大きく変わります。だからこそ、その日の状態に合わせてペースを柔軟にコントロールできる設計にすることを、私たちは大切にしています。

そして、ここがSNEがもっとも気をつけているところです。

走り終わってまっすぐ歩けない、膝に手をついてしまう、座り込んでしまう── そんな練習は、長距離の練習としてはやりすぎです。そうならないよう、コーチが常に目を光らせ、子どもたちにも伝えています。もしそうなってしまったら、量か強度のどちらかが不適切。たいていは強度が高すぎる(ペースが速すぎる)サインです。

じつはこれ、基礎のスピードが磨けている子ほど起こりやすいんです。スピードが出せてしまうぶん、楽に上げられて、つい追い込みすぎてしまう。良くも悪くも、ですね。そこを理解したうえで、注意して指導にあたっています。

仕上げの「ペース感覚」|2km・3kmは“一定ペース”が命

3つの要素(スピード・ベース・LT)が土台だとすれば、それを本番のレースで生かすための仕上げが「ペース感覚」です。自分の限界に対して、今どれくらいのペースで走っているかを体で理解している力、と言いかえてもいいでしょう。

2kmや3kmという距離では、「前半を突っ込んで、後半は気合いで粘る」という走り方は、ほとんど通用しません。よほど身体能力が高い子をのぞけば、最初から最後までいかに一定のリズムで刻めるかが、タイムを大きく左右します。

では、どう身につけるのか。SNE Legacyでは、普段のジョグのなかで「今のはこれくらいのペースだよ」と繰り返し伝えていきます。おもしろいことに、“遅いペース”の感覚が研ぎ澄まされてくると、“速いペース”への理解度もおのずと高まります。ゆっくりを正確に走れる子は、速さも正確にコントロールできるようになるのです。

さらにSNEが日々の練習で強く刷り込んでいるのが、ネガティブスプリット── 前半よりも後半のほうがペースが速い、という走り方です。本数を重ねるインターバルのような練習でも、「1本目より5本目のほうが速い」を意識させる。この積み重ねが、レース終盤でこそ粘れる“後半に強い走り”につながっていきます。

なぜ「スピード→ベース→LT」の順なのか|ゴールデンエイジ理論

ここまで「スピードが土台」「鍛える順番がある」とお伝えしてきました。では、なぜこの順番なのか。その背景には、小学生という時期ならではの体の特性があります。

9〜12歳ごろは、一般にゴールデンエイジと呼ばれる時期です。これは、神経系の発達が最も活発になる年代で、体の動かし方やスピード、技術といった「動きの質」を吸収する力が一生のうちで最も高まる時期だと言われています。自転車の乗り方や逆上がりが、子どものうちはすぐ身につくのに大人になると難しい── あの感覚に近いものです。

だからこそ、私たちはこの貴重な時期に「スピード」と「正しいフォーム」という神経系の要素を最優先で育てたいと考えています。最高速度や無駄のない動きは、まさにこのゴールデンエイジに伸ばしておきたい力だからです。土台となるスピードがしっかり育っていれば、その後にベースやLTを積み上げたとき、伸びしろが大きく変わってきます。

逆に、この時期に長距離の走り込みばかりに偏ってしまうと、神経系を鍛える絶好の機会を十分に活かしきれないまま過ぎてしまいかねません。さらに、成長期のお子様の体にとって、過度な走り込みは負担が大きくなりやすいことも知られています。現代のスポーツ科学や小児生理学の観点からも、「小学生のうちはスピードと技術を優先し、持久系の負荷は段階的に」という考え方が広く支持されています。

そしてもうひとつ、コーチとして強くお伝えしたい「スピードを先に育てたい理由」があります。

スピードがあると、長距離のレースで“できることの幅”が一気に広がります。レースにはペースの変動があり、コースにはアップダウンがあり、最後にはラストスパートがある。これらは、スピードがないとまったく対応できません。一定のペースで走れるだけでは、自分でレースを作ることも、動かすこともできない。それでは発展性がないんです。

スピードがあれば、相手にゆさぶりをかける、中盤で大きく抜け出す、上り下りを利用して突き放す── そんな選択肢が増えます。たとえ勝てなかったとしても、そういう走りができる子のほうが、レースを楽しめるし、頭も使えるようになる。トータルで見て伸びしろが大きいですし、見ていて面白いから、応援される選手にもなるんですよ。

「楽しく」「将来につながる形で」速くなってほしい── SNE Legacyが走り込みに頼らないのは、この一点に行き着きます。

SNE Legacyの「期分け」|半年をどう設計するか

ここまでお話ししてきた3要素を、行き当たりばったりにではなく、時期ごとに「今はどれを重点的に育てるか」を設計して積み上げていく── これがSNE Legacyの「期分け」(一定の期間ごとに練習のねらいを変えていく考え方)です。本番の12月に向けた半年を、私たちはおおよそ次のように設計しています。

  • 6〜7月|スピード・フォーム 短距離の練習を中心に、土台のスピードと正しいフォームを磨く時期。
  • 8〜9月|ベース ベースを鍛え始める時期。暑い季節なので、なるべく涼しい時間帯にジョグの時間をしっかり取り始めます。
  • 10〜11月|LT 起伏のあるコースのジョグ、ビルドアップ、ミニ駅伝やレクリエーションでLTを高める時期。涼しく、いちばん練習しやすい気候です。
  • 直前|調整 レッスン内の走行距離を少し落とし、改めてスピードとフォームを確認。本番当日をイメージしたシミュレーションも行います。

ピラミッドの「スピード→ベース→LT」という順番が、そのまま半年のスケジュールに対応しているのがお分かりいただけると思います。土台から順に積み上げるからこそ、本番でしっかり力が出せるのです。

なお、ひとつ補足です。SNE Legacyは長距離専門のクラブではありません。短距離を速くするトレーニングは年間を通して行っており、8月以降に短距離をまったくやらなくなるわけではありません。比率で言えば、長距離の練習は多くてもレッスン全体の半分ほど。あくまで「陸上の総合力を育てるなかで、町田こどもマラソンにも本気で向き合う」── それがSNEのスタンスです。

家庭でできること・やりすぎないこと

最後に、ご家庭で意識していただきたいことをお伝えします。「速くなってほしい」という思いから、つい“もっと走らせよう”としてしまいがちですが、ここはむしろ「やりすぎない」ことが大切です。

家庭での自主的な運動としては、合計5km以内の軽めのジョグなら、まったく問題ありません。ただし、タイムを計るのはおすすめしません。記録が見えると、どうしても追い込みたくなってしまうからです。追い込みすぎは禁物。気持ちよく走って終わる、くらいがちょうどよい塩梅です。

そして、意外と見落とされがちなのが食事です。SNE Legacyからのお願いは、ひとつだけ。無理な減量はさせないでください

糖質・タンパク質・脂質・ビタミンのバランスを意識して、しっかり食べる。これが基本です。走り始める前から明らかな肥満体型、という場合をのぞけば、成長期のお子様の体重は、基本的に減らないほうがよいと考えています(男女共通)。走ることで筋肉・骨・内臓が鍛えられ、密度が濃くなり、体の水分量も増えます。その結果として体重が増えるのは、成長期ではむしろ自然なことなのです。

反対に、無理な減量はスピードを落とし、エネルギーを蓄えられなくし、貧血・骨粗しょう症・故障といったリスクにつながります。良いことは、ひとつもありません。たくさん食べて、食べたぶんをしっかり走って消費する── これが、成長期のお子様にとっていちばん健やかな循環です。

走り込みに頼らず、楽しく速くなる

最後に、本記事の要点を3行で振り返ります。

  • 小学生が長距離を速く走る鍵は、スピード・ベース・LTの3要素+ペース感覚
  • 鍛える順番は「スピード→ベース→LT」。ゴールデンエイジの神経系を活かすため、スピードと技術が最優先
  • だからSNEは走り込みに頼らない。楽しく、将来につながる形で速さを育てる

SNE Legacyは、南町田・鶴間公園を拠点に、こうした考え方を「期分け」として設計し、一回一回のレッスンに落とし込んでいる小学生向け陸上クラブです。指導陣の詳細はコーチ紹介ページをご覧ください。お子様が今どんな走りをしているのか、まずは無料体験レッスンで見せてください。「速く走るのが楽しい」の入口を、一緒に見つけましょう。

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